【2026/05/26】一日の市場を、流れで読む

Market Daily cover

この日の市場は、前日の「米イラン協議期待と原油安で株を買う」流れを、そのまま延長できるかが試された。答えは単純ではない。東京では日経平均が4日ぶりに反落し、前日までの急伸に利益確定が出た。一方、NYではAI・半導体買いが強く、S&P 500とナスダックは過去最高値を更新した。

読みの中心は、地政学リスクが消えたのではなく、AI相場がそれを上回る形で株式を支えたということだ。米軍によるイラン南部での攻撃で停戦期待は揺らぎ、ブレント原油は反発し、ドル円は160円に接近した。それでも米株は、マイクロン急騰を軸にリスク選好を保った。市場はリスクを無視したのではなく、資産ごとに別々の材料を織り込んだ。

今日のサマリー

まず、一日の流れ

Market timeline

この図は、東京の利益確定、欧州のエネルギー・政策警戒、NYのAI買いを一つの流れとして整理したものだ。26日は、単純なリスクオンでもリスクオフでもなかった。地政学リスクは戻ったが、AI相場が株式の下支えになった。

東京時間の始まりは、前日の余韻を引き継いでいた。朝方の見通しでは、米国とイランの和平合意への期待感が投資家心理を支え、出遅れ株にも物色が向かう可能性があるとされた。一方で、前日までに日経平均が大きく上昇していたため、上値では利益確定売りも想定されていた。日経平均の予想レンジは6万5000円から6万5600円とされていた

実際の寄り付きは強かったが、長くは続かなかった。日経平均は前営業日比89円05銭高の6万5247円24銭で始まった後、短時間でマイナスに転じ、6万5000円を下回った。前日に買われたAI・半導体関連では弱い銘柄が目立ち、指数の高値更新後の反動が意識された。

大引けでも、その構図は残った。日経平均は4日ぶりに反落し、6万4996円09銭で取引を終えた。ただし、これは相場の崩れというより、急伸後の整理に近い。ソフトバンクグループは10%超高となり、太陽誘電、ルネサスエレクトロニクス、AGCも大きく上昇した。下値では押し目買いも入り、全面的なリスク回避にはならなかった。

欧州時間に入ると、中東情勢がエネルギー価格と金融政策へ波及する読みが前面に出た。ECB当局者は、エネルギー価格ショックの持続性やインフレへの波及を政策判断の焦点として示した。欧州株は底堅かったが、中央銀行にとっては原油やガスの価格が一時的なノイズで済むかどうかが、次の政策反応を左右する材料になった。

NY時間は、地政学とAIが正面からぶつかった。米国株式市場ではS&P 500とナスダックが過去最高値を更新し、マイクロンは19%上昇して時価総額が初めて1兆ドル台に乗せた。同じ時間帯に、米イラン情勢はむしろ不安定化していた。だからこそ、26日の株高は「中東リスクが消えたから」ではなく、「AI・半導体の成長期待が中東リスクを上回ったから」と読む方が実務的だ。

東京市場

東京市場で重要だったのは、反落そのものより、反落の中身だ。前日までの日経平均は3営業日で5353円上昇していた。これだけ短期間に上がれば、好材料が残っていても利益確定売りは出やすい。26日の下落は、米イラン協議期待の否定というより、上昇速度への調整だった。

もっとも、朝の段階ではまだ買い先行の余地があった。和平期待、AI・半導体関連株、出遅れ株物色が支援材料だったためだ。しかし、寄り付き後に6万5000円を割り込んだことで、市場は前日の最高値更新を追いかけるより、いったんポジションを軽くする方向へ傾いた。特に半導体関連に利益確定売りが出たことは、前日までの上昇を支えたテーマの一部が短期的に重くなったことを示す。

一方で、主力株の一角は強かった。大引け時点でソフトバンクグループは10%超高となり、太陽誘電、ルネサスエレクトロニクス、AGCも6から7%超上昇した。つまり、指数全体は反落したが、成長テーマや個別材料への買いは残った。これは、地合いが完全に悪化した局面とは違う。

為替は、東京時間では大きく動かなかった。午後3時のドル円は159円付近で、前日の欧米市場が休場だったことや、東京時間にイラン情勢の追加材料が乏しかったことから動意に欠けた。市場では、中東情勢への反応に慣れが出ており、緊迫化前の水準を取り戻すほどの材料がなければ、為替の大きな反応にはつながりにくいとの見方も出ていた。

日銀材料も、東京市場の底流にあった。氷見野日銀副総裁は、政策調整のタイミングやペースについて、中東情勢の展開が経済や物価に及ぼす影響を分析しながら検討すると述べた。経済は減速しつつも緩やかな成長を維持し、物価は今年度を中心に伸び率を高めるとの説明だったが、中東情勢次第で中心シナリオは大きく変わり得るとも指摘した。

この発言は、株式と為替の両方に関係する。中東リスクが原油高と輸入物価上昇を通じて物価を押し上げるなら、日銀は緩和度合いの調整を続けやすくなる。一方で、同じ中東リスクが景気を下押しするなら、利上げペースには慎重さが必要になる。東京市場は、株価の利益確定だけでなく、政策反応の読みも同時に抱えていた。

欧州市場

欧州では、中東情勢がより直接的にエネルギーと金融政策の話になった。欧州経済にとって、エネルギー価格の上昇は企業コスト、家計の実質所得、インフレ見通し、中央銀行の判断を同時に動かす。26日は、その連鎖が改めて意識された。

オランダ中銀のスレイペン総裁は、エネルギー価格ショックの持続性がECBの次回政策決定を左右する重要な要素になるとの見方を示した。総合インフレを押し上げているエネルギー価格が、他の物価指標へどの程度波及しているかを注視するという説明だ。これは、原油高を単なる商品市場の動きとしてではなく、政策金利の材料として見る必要があることを意味する。

さらに、ECB内にはより強い引き締め論もあった。シュナーベル理事は、イラン和平合意が成立しても6月利上げが必要との考えを示した。また、仏中銀総裁もインフレ抑制へ必要な行動をためらわないと述べた。欧州では、中東情勢が緩和しても、すでに生じた価格ショックが物価期待に残るリスクが意識されている。

景況感にも影響は出ている。ドイツ商工会議所の調査では、イラン紛争によって景気回復期待が後退し、ドイツ企業は現在の状況をコロナ禍並みに悲観的に見ているとされた。DIHKは2026年の経済成長率予測を年初の1%から0.3%へ下方修正した。これは、エネルギー価格が市場価格だけでなく企業心理にも波及していることを示す。

ただし、欧州株が全面的に崩れたわけではない。欧州市場サマリーでは、ロンドン株が続伸し、FTSE100は約1カ月ぶりの高値、中型株指数は約3カ月ぶりの高値を付けた。米国とイランの協議に進展の兆しがあり、戦闘停止やホルムズ海峡の封鎖解除につながるとの期待が支えた。米軍攻撃など不透明感は残るが、株式市場は協議期待を完全には捨てていない。

欧州の読みは、したがって二段構えになる。短期的には、和平期待が株式を支える。中期的には、エネルギー価格が高止まりすれば、ECBの政策判断と企業心理を通じて株価の上値を抑える。26日は、この二つが同じ日に並んだ。

NY市場

NY市場では、AI・半導体が主役だった。マイクロン・テクノロジーは19.3%高の895.88ドルで引け、時価総額が初めて1兆ドル台に乗せた。UBSが目標株価を従来の535ドルから1625ドルへ引き上げたことがきっかけとなり、AIインフラにおけるメモリーチップ需要への期待が一気に強まった。

この動きは、AI相場の広がりを示す。投資家は当初、GPUメーカーに集中していたが、大手テクノロジー企業の設備投資から恩恵を受ける企業を探し始めている。メモリーなどAIインフラ周辺へ視線が広がるなら、AI相場は単一銘柄の物色から、より広い設備投資サイクルの読みへ変わる。

その結果、米株は地政学リスクを吸収した。S&P 500とナスダックは過去最高値を更新し、好調な決算やAI関連取引への信頼回復を背景に、イランとの紛争が続く中でも米株市場は上昇してきた。ただし、ハイテク相場の上昇が1990年代末のブームを想起させるとの市場コメントもあり、テーマ集中とバリュエーション拡張には注意が必要だ。

一方、マクロ面は楽観だけではない。米5月のコンファレンス・ボード消費者信頼感指数は93.1となり、前月から0.7ポイント低下した。中東の戦争によるインフレへの影響が強まるなか、物価や石油・ガスに関する言及が増え、地政学リスクへのコメントも高水準にあるとされた。AI相場が株価を押し上げても、家計はエネルギー価格と物価に敏感なままだ。

債券市場は、少し違う反応を示した。NY市場サマリーでは、米10年債利回りが8.1ベーシスポイント低下の4.491%、30年債利回りが5.9ベーシスポイント低下の5.023%とされた。ホルムズ海峡再開への合意期待から、インフレ見通しへの警戒が幾分和らいだという説明だ。米軍攻撃で停戦期待は揺れたが、債券市場は原油供給が完全に遮断されるシナリオまでは織り込んでいない。

外為では、有事のドル買いが戻った。NY外為市場ではドルが主要通貨に対してやや上昇し、円は159.31円まで下落して、介入ラインとみられる160円に接近した。米軍攻撃を受け、戦闘停止に向けた合意への期待が後退したことが背景だ。ここでは金利差だけでなく、地政学リスクと日本当局の介入警戒が同時に働いている。

クロスマーケットで読む

Cross market map

この図は、26日の市場を動かした四つの経路を整理している。中心にあるのは米イラン情勢だが、そこから出る矢印は一方向ではない。原油、為替、欧州政策、AI株が、それぞれ別の速度で反応した。

第一の経路は、米軍攻撃から原油への波及だ。米中央軍は25日、イラン南部で自衛目的の攻撃を実施し、機雷を敷設しようとしていた船舶やミサイル発射拠点を標的にしたと発表した。これを受けて、紛争終結やホルムズ海峡再開を巡る合意期待は後退した。ブレント先物は3.44ドル、3.6%高の99.58ドルで清算された

ただし、供給遮断が現実化したわけではない。イラン革命防衛隊は、過去24時間に石油タンカーなどを含む25隻の商船がホルムズ海峡を通過したと発表した。このため、原油の反発は実需不足というより、リスクプレミアムの再付与として読む方が自然だ。さらに、オマーン沖ではギリシャ所有の原油タンカーに外部爆発が発生したが、事故原因は不明とされている。乗組員は無事だが、一部燃料油の流出が報告された

第二の経路は、AI需要から米株への波及だ。地政学リスクが原油とドルを動かす一方で、AIは株式市場を支えた。マイクロンの急騰は、AIインフラ需要がメモリーへ広がるとの読みを強めた。これは日本株にも含意がある。東京市場では一部半導体株に利益確定が出たが、米国でAI関連の物色が続くなら、翌日のアジア時間で関連銘柄が再評価される余地がある。

第三の経路は、ドル円だ。有事のドル買いで円は159円台まで下落し、160円に接近した。ここから先は、単純なドル高シナリオではなく、日本当局の発言や介入警戒が上値を抑える可能性がある。ドル円は、米金利だけでなく、中東リスク、エネルギー価格、日本の政策反応が交差する価格になっている。

第四の経路は、欧州政策だ。エネルギー価格が高止まりすれば、ECBはインフレ波及を無視しにくい。一方、ドイツ企業の景況感は中東情勢で悪化しており、引き締めは景気の重しにもなる。欧州は、原油高を抑えるために利上げを強めれば景気が痛み、利上げを遅らせればインフレ期待が残るという難しい位置にある。

代替仮説として、26日の米株高は「地政学リスクを乗り越えた強いリスクオン」ではなく、「AI・半導体に資金が集中し、他のリスクを一時的に覆い隠した相場」と見ることもできる。この読みが正しければ、AI買いが周辺セクターや地域へ広がらない場合、指数の最高値更新ほど市場全体は強くない。現時点では、地政学リスクと成長期待が同時進行していると見るのが一番使いやすい。

明日の注目点

Watch points heatmap

この図は、翌日に確認すべき四つの論点を並べたものだ。26日の相場は、地政学リスクとAI相場の綱引きだった。次に見るべきなのは、どちらか一方の勝ち負けではなく、どの資産がどちらの材料に敏感になっているかだ。

第一は、米イラン協議が実務的に進むかだ。ルビオ米国務長官は、イランとの合意に関する文言の交渉に数日かかる可能性があると述べている。停戦やホルムズ海峡再開に向けた実行手順が見えれば、原油のリスクプレミアムは下がりやすい。反対に、米軍攻撃への反発が強まり、停戦違反を巡る応酬が続けば、前日の和平期待は後退する。

第二は、原油とホルムズ海峡だ。ブレントは99ドル台まで反発したがホルムズ海峡では商船の通航が確認されている。通航が続き、タンカー被害が拡大しなければ、原油高はリスクプレミアムの範囲にとどまる可能性がある。一方、航行リスクが高まり、保険料や輸送制約が意識されれば、インフレと金利の読みは再び上向く。

第三は、ドル円160円近辺の反応だ。160円は市場が介入ラインとして意識しやすい水準とされる。円安が進むほど、輸入物価や政策対応への警戒も強まる。為替が159円台で止まるのか、160円接近で当局発言が出るのかは、日本株のリスク許容度にも関係する。

第四は、AI買いの広がりだ。マイクロン急騰が米国株だけで終わるのか、日本・アジアの半導体やメモリーなどAIインフラ周辺へ波及するのかを見たい。広がれば、地政学リスクが残っても株式の下値は支えられる。広がらなければ、米株最高値は一部テーマへの集中として割り引く必要がある。

先行きシナリオ

Reader takeaway

26日の市場は、地政学リスクが戻った日でありながら、株式市場が全面的に崩れなかった日でもあった。米軍攻撃で停戦期待は揺らぎ、ブレントは反発し、ドル円は160円に接近した。それでも米株は、マイクロンを中心とするAI・半導体買いで最高値を更新した。

明日は、米イラン協議、ホルムズ海峡の通航、ドル円160円近辺、AI買いの波及を順番に見たい。相場の鍵は、リスクが消えるかどうかではない。リスクが残る中で、AIと企業収益への期待がどこまで市場を支えられるかだ。