【2026/06/04】一日の市場を、流れで読む

6月4日の市場は、地政学リスクの緩和が株式の一部を支えた一方で、AI・半導体には選別の圧力がかかった一日だった。イスラエルとレバノンの停戦合意、米イラン協議の進展期待、原油先物の下落は、インフレ懸念を少し和らげた。NYではダウ工業株30種が終値で最高値を更新した。
ただし、これは広いリスクオンとは言い切れない。ブロードコム決算をきっかけに半導体株が売られ、ナスダック総合は続落した。東京では前日の急騰後の利益確定に加え、日銀利上げ観測と円160円への警戒が重なった。今日の読みは、「中東リスクの緩和で原油は下がったが、AI相場は質を問われ、日本株は政策反応を意識した」というものだ。
今日のサマリー
- 東京市場: 日経平均は前営業日比931円44銭安の6万7470円69銭で終了。前日の大幅高の反動、ソフトバンクグループ安、AI関連の利益確定が重し。
- 欧州市場: 欧州市場は小幅反発。停戦合意と米イラン進展期待が支えたが、英国建設PMIの弱さなどコスト圧力は残った。
- NY市場: ダウは終値で最高値を更新した一方、ナスダックは続落。ブロードコム決算が半導体株に売りを広げた。
- クロスマーケットで目立ったテーマ: 原油反落、円160円、日銀利上げ観測、AI・半導体の選別、ダウとナスダックの二極化。
- 明日に残った論点: 原油下落が続くか、円160円を巡る介入警戒が強まるか、半導体売りが一過性か、ダウ以外に買いが広がるか。
まず、一日の流れ

この図は、6月4日の市場を東京、欧州、NYの順に整理したものだ。東京は前日急騰の反動で反落した。欧州は停戦期待で小反発した。NYは原油安と地政学リスク後退でダウが最高値を更新したが、半導体株安でナスダックは弱かった。
東京時間は、前日の強いAI・半導体相場の巻き戻しから始まった。日経平均は寄り付きで前営業日比541円29銭安の6万7860円84銭となり、反落してスタートした。前日の急騰後の過熱感に加え、中東情勢の緊張、米半導体大手ブロードコムの決算後の株安が重しになった。
前場は下げが深くなった。日経平均は前営業日比1300円30銭安の6万7101円83銭で午前を終えた。ソフトバンクグループ株の下落が指数の下押しに寄与し、一時は1481円安まで下げた。ここで起きたのは、AI相場の崩壊というより、前日の急騰で膨らんだ短期ポジションの調整だった。
午後は少し複雑になった。ドル円は午後3時時点で159円後半、日銀の追加利上げ観測報道を受けて一時159円半ばまで軟化した。同じ材料は銀行株には支援材料になったが、日本株全体には金利上昇と円高方向の警戒を通じて重くなりやすい。
欧州時間に入ると、地政学リスクの読みが少し変わった。イスラエルとレバノンの停戦合意、米イラン協議進展への期待が出たことで、原油上昇シナリオはいったん弱まった。欧州市場サマリーでは、ロンドン株式市場が小幅に反発し、ソフトウエアやIT関連株が買われた。
NY時間は二極化がはっきりした。米国株式市場はまちまちとなり、ダウは終値で最高値を更新した。一方、ブロードコムは12.6%急落し、半導体株が売られ、ナスダック総合は続落した。市場はAIを捨てたわけではないが、AI関連なら何でも買う段階から、売上高、利益、バリュエーションを点検する段階へ移った。
東京市場
東京市場の主役は、前日の急騰の反動と政策観測だった。大引けの日経平均は前営業日比931円44銭安の6万7470円69銭。前日に1600円超上昇していたため、短期的な利益確定が出やすかった。ソフトバンクグループの下落も、指数寄与度の面で大きかった。
ただ、終日売り一色ではなかった。前場に一時1481円安まで下げた後、後場は6万7300円台を軸に一進一退となった。午後には日銀利上げ観測を受け、銀行株が上げ幅を広げる場面もあった。つまり市場は、AI関連の利益確定を進めながら、金利上昇で恩恵を受ける金融株へ一部資金を移した。
この日の日銀材料は、単なる観測報道以上の意味を持っていた。日銀は次回会合で1%への利上げを検討し、中東リスクを見極めて最終判断するとされた。中東情勢による原油高は、景気下振れリスクと物価上振れリスクの両方を生む。日銀にとっては、利上げを急ぎすぎても、遅らせすぎてもリスクがある。
為替もその緊張を映した。午後3時のドル円は159円後半で、政府当局者の防衛ラインと目される160円を意識した小動きだった。円安は輸出株には追い風になり得るが、160円台では介入警戒と日銀利上げ観測が強まりやすい。日本株にとっては、円安メリットよりも政策反応の不確実性が意識される局面になった。
国内政策の材料も並んだ。高市首相は食品消費税率ゼロ%を実現したいと述べ、今夏結論が出れば次の国会で早期に法案を出す考えも示した。片山財務相は補正予算財源に関し、国債発行計画を変更せず市場と対話してきているとの認識を示した。これらは直接の株価材料というより、財政、物価、金利を通じて日銀の政策判断に絡む補助線として読むべきだ。
欧州市場
欧州市場は、地政学リスク後退への期待と、コスト上昇への警戒が同時に出た。欧州市場サマリーでは、ロンドン株式市場が小幅に反発し、イスラエルとレバノンの停戦合意、米イランの戦闘終結に向けた協議進展への期待が好感された。金融関連の一部は売られたが、ソフトウエアやIT関連株は買われた。
この反発は、原油上昇シナリオの巻き戻しと結びついている。アジア時間には原油先物が反落していた。イスラエルとレバノンの停戦合意を受け、イラン戦争終結に向けた合意への期待が高まった。原油高がインフレと中銀警戒を押し上げる構図が少し緩んだことで、欧州株には買い戻しが入りやすくなった。
一方で、景気とコストの問題は残った。英国の5月建設業PMIは38.2と、2020年5月以来の低水準になった。燃料、エネルギー、輸送費の上昇を背景に、建設各社はコストがロシアのウクライナ全面侵攻後となる2022年6月以来のペースで上昇したと報告した。停戦期待で原油が下がっても、既に積み上がったコスト圧力はすぐには消えない。
アジア市場では、リスク回避とAI期待が同時に見えた。中国・香港株式市場は中東情勢の緊張再燃で下落したが、中国の半導体メーカー株は米政府の制裁や輸出規制を回避するとの期待、DeepSeek関連報道で買われた。アジア株全体は弱くても、AIと半導体の一部には資金が残る。この選別は、NYの半導体売りと合わせて見る必要がある。
個別材料では、欧州銀行の再編、プライベート資産の流動性、関税も目立った。コメルツ銀行はウニクレディトのTOB応募開示に疑義を示し、パートナーズ・グループは解約請求増で別ファンドにも上限設定の見通しが出た。USTRは日欧との関税上限尊重を再表明したが、強制労働に絡む新たな関税措置の論点は残った。これらは、株式指数の短期反発とは別に、信用、市場流動性、貿易コストのリスクが消えていないことを示す。
NY市場
NY市場では、原油安と半導体安が同時に進んだ。米国時間の原油先物は約3%下落し、北海ブレントは95.03ドル、WTIは93.04ドルで清算された。イスラエルとレバノンの停戦合意を受け、イラン紛争終結とホルムズ海峡再開への期待が意識された。
この原油安は、ダウ最高値の背景として重要だ。原油高がインフレ、金利、中銀警戒を通じて株式の上値を抑えていたため、その逆回転は景気敏感株や大型株に安心感を与えた。米国株式市場では、イランでの戦闘終結に向けた進展が投資家心理を後押しし、ダウが終値での最高値を更新した。
ただし、ナスダックの続落は見逃せない。ブロードコムは12.6%急落し、同社の決算がAIブームに影を落としたとされた。ここで問われたのは、AI需要の有無ではなく、AI需要がどの企業の売上高と利益に、どの速度で、どの評価倍率で反映されるかだ。半導体株を見限ったというより、投資家がAIの収益化を銘柄ごとに確認し始めた。
米マクロは、利下げ期待を一方向に強める内容ではなかった。米週間新規失業保険申請は前週から1万3000件増の22万5000件となり、予想を上回ったが、基調的には労働市場の安定を示す内容とされた。増加はメモリアルデー前後の変動として重く受け止められていない。労働市場は「低解雇・低採用」の状態に近く、景気急減速とも過熱とも言い切りにくい。
FRBに関しては、慎重姿勢が続く材料が出た。IMFは、エネルギー価格ショックや関税コスト転嫁による物価上振れリスクを理由に、FRBに金利政策で慎重姿勢を維持するよう促した。原油が一日下がっても、物価リスクが消えたわけではない。ダウ最高値は、利下げ期待だけで説明するより、原油安によるリスクプレミアム低下と読む方が自然だ。
為替では、ドル指数が小幅に下がっても円は弱かった。NY外為市場で円は対ドル160.015円となり、市場介入の可能性が意識された。ドル高の勢いに逆らうのは難しいとの見方も示された。原油安で一部安心感が出ても、米経済の底堅さと日本側の政策反応が、円相場を次の焦点に残した。
クロスマーケットで読む

この図は、6月4日の市場を4つの経路で整理している。中東緩和は原油安とダウ高につながった。ブロードコム決算は半導体安とナスダック続落につながった。日銀利上げ観測と円160円は、日本株の内側で銀行株支援と指数調整を同時に生んだ。AI需要は残るが、市場の厚みはまだ十分ではない。
第一の経路は、中東から原油、インフレ、株式への流れだ。前日まで原油高はインフレ懸念を強めていたが、停戦合意と和平期待で原油は下落した。これは中銀警戒を完全に消すものではないが、少なくともダウを押し上げる安心材料にはなった。
第二の経路は、AIから半導体への再評価だ。ソフトウエア株にはAIが成長を後押しするとの見方が広がり、データセンター資金調達、AmazonのAI倉庫ロボ、新興国株のAI主導利益見通しなど、構造需要は残っている。米ソフトウエア株はAIが成長を後押しするとの見方で急反発している。
一方で、ハイテク株への依存度が高まること自体が新たなリスクでもある。米主要株価指数は急騰するハイテク株への依存度を高めており、けん引銘柄が失速した場合の指数下落リスクが増している。つまりAI需要は続いても、指数全体がそれに過度に寄るなら、決算一つで市場の空気は変わりやすい。
第三の経路は、日本の金利と為替だ。日銀利上げ観測は銀行株を支えるが、日経平均には割引率上昇と円高圧力を通じて重くなり得る。円160円は輸出株の追い風であると同時に、介入警戒と日銀反応を呼ぶ水準でもある。東京市場の反落は、単なる利益確定だけでなく、金融政策の先行きが株式評価に戻ってきたことを示した。
代替仮説として、この日のダウ最高値は本格的なリスクオンではなく、原油安と大型株に偏った一時的な安心感だった可能性がある。もしそうなら、半導体売りが止まらず、ナスダックや小型株に弱さが残る。逆に、原油安が続き、AI売りがブロードコム周辺に限られ、金融株や景気敏感株にも買いが広がるなら、4日は広いリスク選好に戻る入口だったと読める。
明日の注目点

この図は、次のセッションで見るべき材料を優先度で並べたものだ。最も重要なのは、原油安と停戦期待が続くか、円160円と日銀利上げ観測がどう動くか。その次に、半導体売りの広がり、米指標とFRB、ダウ以外の市場の厚みを見る。
第一は原油と停戦だ。ブレント95.03ドル、WTI93.04ドルへの下落が続けば、インフレ懸念と中銀警戒は一段と和らぐ。反対に、停戦合意が崩れたり、ホルムズ海峡再開期待が後退したりすれば、原油高、ドル高、株式の利益確定が戻りやすい。
第二は円160円と日銀だ。円が160円台に定着すれば、介入警戒は強まる。日銀が1%への利上げを本当に検討するなら、銀行株には支援材料だが、グロース株や輸出株には重くなる可能性がある。日本株を見るうえでは、円安メリットと政策リスクを分けて確認する必要がある。
第三は半導体の広がりだ。ブロードコム発の売りが一部銘柄にとどまるなら、AI相場は選別しながら続く。半導体全体、ソフトウエア、データセンター、クラウド、電力関連まで売りが広がるなら、AIの構造需要ではなく、AIバリュエーションの調整が市場の主題になる。
第四は米指標とFRBだ。失業保険申請は増えたが、基調は安定とされた。今後の雇用、物価、消費関連指標が、FRBの慎重姿勢を補強するのか、利下げ期待を再び強めるのかが焦点になる。
第五は市場の厚みだ。ダウが最高値を更新しても、ナスダックが続落し、小型株やグロース株が弱いなら、相場は広い上昇ではない。セクター、地域、時価総額の広がりを確認しないと、ダウ最高値だけでリスクオンと判断するのは危うい。
先行きシナリオ
- 基本シナリオ: 原油安でインフレ警戒はやや和らぐが、円160円、日銀利上げ観測、AI・半導体の選別が残る。株式は指数ごと、セクターごとの二極化が続きやすい。
- 安心シナリオ: 停戦期待が維持され、原油がさらに落ち着く。半導体売りが限定的に収まり、AI需要がソフトウエア、データセンター、金融、景気敏感株へ広がる。
- ストレスシナリオ: 停戦期待が崩れて原油が再上昇し、円160円台が定着する。日銀とFRBの慎重姿勢が強まり、半導体売りが大型ハイテク全体へ広がる。
- 読み直しの条件: ダウ以外に買いが広がり、ナスダックと半導体が下げ止まるなら、4日の市場はリスク選好への再開だったと読める。反対に、原油安でも半導体と小型株が弱いなら、相場の厚みは不足している。
Reader takeaway
6月4日は、原油とAIを分けて読む必要がある日だった。原油は停戦期待で下がり、ダウは最高値を更新した。これは市場にとって明るい材料だ。ただし、AI・半導体ではブロードコム決算をきっかけに選別が強まり、ナスダックは続落した。
今日の結論は、「原油は安心、AIは点検、円と日銀は緊張」だ。次に見るべきは、原油下落が続くか、円160円に政策反応が出るか、半導体売りが一過性か、ダウ以外に買いが広がるか。この4点がそろえば、4日のダウ最高値は広いリスクオンの入口になる。そろわなければ、安心感はまだ一部に限られる。