【2026/06/25】一日の市場を、流れで読む

Market Daily cover

6月25日の市場は、AI半導体がリスク選好を引き戻した一方で、インフレと中銀姿勢が上値を抑える一日だった。MicronとQualcommの強い見通しを受け、半導体株は時間外で時価総額4000億ドル超を押し上げ、AIインフラ需要がまだ市場の中心テーマであることを確認した。

ただし、この日の読みは単純なリスクオンではない。米PCEは前年比4.1%と予想通りながら高水準で、ドルは反落したものの、Fed高官はインフレ警戒を解いていない。原油はホルムズ海峡の通航増で供給不安が後退したが、主要中銀はエネルギー価格の落ち着きだけで緩和へ傾く段階ではなかった。

今日のサマリー

まず、一日の流れ

Market timeline

この図は、東京のAI半導体支援、欧州の株高とECB警戒、NYのドル反落とFed慎重姿勢、そしてホルムズ海峡を通じた原油供給不安の後退を並べている。6月25日は、前日までの「原油安は安心だがテックは重い」という構図から、「AI実需の確認で株式は再び買えるが、金融政策はまだ緩まない」という読みへ移った。

東京時間の出発点は、米国引け後の半導体材料だった。Micronは四半期利益見通しが市場予想を上回り、AI関連インフラ投資がメモリ需要を押し上げると示した。Qualcommも、スマートフォン依存を下げながらデータセンター事業を伸ばす見通しを示した。この二つの材料は、AI株の調整がテーマの終わりではなく、収益化できる企業への選別に変わったことを示した。

アジアの文脈では、韓国株の振れがその象徴だった。韓国KOSPIはAIブームで年初から倍以上になった一方、ボラティリティ指数は過去最高とされる。SK HynixとSamsungの集中度、個人投資家の比重、信用取引の増加が、AI相場の強さと脆さを同時に映していた。

欧州時間に入ると、株式はAI材料を受け取った。STOXX 600は0.8%高の640.21で過去最高値を更新し、ヘルスケアとテックが支えた。欧州に米国のような巨大テックが少なくても、半導体装置、産業電力、ヘルスケアのように、AI投資や金利環境の影響を受けるセクターへ資金は流れた。

ただし、欧州の政策メッセージは株高ほど楽観的ではない。ECBのSchnabelは、中東停戦後もエネルギー価格が高く、インフレを2%目標へ戻すため追加利上げが必要との見方を示した。原油が落ち着けば市場は安心しやすいが、中銀は一度上がった価格や期待の粘着性を見ている。

NY時間には、米インフレとドルが焦点になった。米PCEは前年比4.1%と2023年4月以来の4%超えだったが、予想通りで、前月比は0.4%と予想の0.5%を下回った。これを受け、ドル指数は0.19%下落し101.41となった。過去数日の利上げ観測で買われたドルが、予想内のインフレでいったん巻き戻された形だ。

しかしFed高官の発言は、ドル安を全面的な利下げ期待に変えるものではなかった。Williamsはインフレがなお2%目標を大きく上回り、現在の政策姿勢は物価圧力低下に適切だと述べたGoolsbeeもサービスインフレに希望の兆しを見ながら、基調的な物価圧力はなお高すぎるとした

東京市場

東京市場とアジア時間は、AI半導体の買い戻しから始まった。前日の米国市場ではテック株に高値警戒が残っていたが、MicronとQualcommの見通しは、AI投資が単なる期待ではなく、メモリ、データセンター半導体、周辺装置の受注や売上へ落ちていることを示した。投資家にとっては、AI相場を売る理由より、どの企業が利益に変えられるかを選ぶ理由が増えた。

Qualcommの材料は特に重要だった。同社は2029年までにデータセンター事業で150億ドルの売上を見込み、スマートフォン以外のチップ収入を400億ドルへ伸ばすとした。これは、AIインフラ需要がNvidiaやメモリだけでなく、低消費電力、カスタムチップ、クラウド大手向け供給へ広がるという読みを支える。

一方で、AI相場の熱はボラティリティも高める。韓国株はAIブームの恩恵を強く受ける一方、SK HynixとSamsungへの集中度が高い。KOSPIが世界で最も熱い市場の一つになったことはプラス材料だが、個人投資家と信用取引が振れを増幅する局面では、AIテーマが少し揺らぐだけで指数全体が大きく動きやすい。

日本の政策材料は、AI株高とは別の緊張を作った。日銀の田村委員は、政策金利を数カ月ごとに0.25ポイントずつ中立金利方向へ引き上げることを基本線として示し、物価上振れリスクが高まれば利上げ頻度や幅を加速する必要があると述べた。AI関連株には追い風があっても、国内金利や円相場には引き締め方向の警戒が残る。

この時間帯の含意は、株式の成長期待と中銀のインフレ警戒が同時に強まったことだ。AI需要が強いほど設備投資、電力、素材、メモリ需給に波及する。だが同時に、エネルギーや輸入コストが上がりやすい環境では、中銀は成長テーマを理由に金融条件を緩めにくい。

欧州市場

欧州市場では、AI材料が株価を押し上げた。STOXX 600は最高値で引け、ヘルスケア株が大きな支えになった。Bayerの裁判材料も個別には効いたが、指数全体の心理を変えたのは、MicronとQualcommがAI株高の持続性を再確認させたことだった。

半導体関連の反応は広かった。Infineon、STMicroelectronics、ASML、Siemens Energyなど、AI需要やAI設備投資に近い銘柄が買われた。欧州には米国のメガテックのような収益構造は少ないが、半導体装置、電力設備、産業向け技術の形でAIテーマに参加する企業はある。市場はその経路を買った。

それでも、欧州の株高は金融政策の安心とは別物だった。Schnabelの発言は、中東停戦で原油が落ち着いても、ECBがインフレリスクを軽く見ていないことを示した。市場では7月会合での利上げ確率も意識され、9月の追加利上げがより本線に近いとの見方が残った。

英国でも、金融政策コミュニケーションの難しさが出ていた。BoEのGreeneは、単一の集合見通しから複数シナリオと個人意見を重視する運営への移行が、委員の合意形成を弱めるリスクに触れた。インフレ環境が不安定な局面では、中央銀行の発信そのものが市場の変動要因になる。

欧州時間の読みは、株式はAIで買えるが、債券や為替は中銀の慎重姿勢を無視できないというものだった。AIは利益成長の物語であり、インフレは割引率の物語だ。この二つが同じ日に並んだため、欧州株の最高値は強いが、無条件の金融緩和期待に支えられた株高ではなかった。

NY市場

NY市場では、米PCEがドルと金利期待の中心になった。前年比4.1%という数字は高く、物価が目標へ戻ったとは言えない。それでも市場予想と一致し、前月比が予想を下回ったため、ここ数日積み上がっていたドル買いは一部巻き戻された。ドル指数は101.41へ下がり、ユーロは1.1375ドルへ上昇した。

このドル安は、インフレ問題の解決ではなく、最もタカ派的な利上げシナリオの修正として読むべきだ。消費支出は0.7%増と堅調で、インフレが高くても家計需要は崩れていない。需要が強いままなら、Fedは早い緩和へ動きにくい。市場はインフレ鈍化の兆しを買ったが、政策転換を確信したわけではない。

Micronの株価反応は、この日の株式市場の象徴だった。Micronは18.4%高となり、時価総額で一時MetaやTeslaに並ぶ規模へ上昇した。同社は顧客がメモリ供給を確保するため220億ドルをコミットしたと開示しており、AIインフラ需要が企業収益に直結しているとの読みを強めた。

カナダ市場も、ドル反落と資源材料の交差点だった。カナダドルは7日続落後、1米ドル1.4202カナダドルへ0.2%高となり、前日の14カ月安値から反発した。一方、米原油価格は70.68ドルで0.5%高とされ、資源国通貨には支えになった。ただし原油のピークからの下げは、世界のインフレ見通しを和らげる方向でもある。

NY終盤には、信用市場の弱さも見えた。Aresの私募クレジットファンドでは、第2四半期に14.4%の解約請求があり、慣例上の5%上限で解約が制限された。株式市場がAIで持ち直しても、非上場クレジットでは貸出基準やAI disruptionへの不安が流動性圧力として出ている。

クロスマーケットで読む

Cross market map

この図は、AI需要、米インフレ/Fed、原油供給の三つを起点に、株式、為替、金利、商品へどう伝わったかを整理している。6月25日のポイントは、同じ「安心材料」でも、資産によって意味が違ったことだ。

第一の経路は、AI需要から株式への流れだ。MicronとQualcommの見通しは、AIインフラ投資が半導体の売上や受注に届いていることを示した。これが欧州株、韓国株、米半導体株を支えた。ただし、AI株高は指数全体の安定ではなく、利益化できる企業を選ぶ相場に近い。

第二の経路は、米インフレからドルと金利期待への流れだ。PCEが予想内だったためドルは反落したが、Fed高官はインフレがなお高いと述べた。つまり、ドル安は利下げ確信ではなく、過度な利上げ観測の調整だった。米金利の具体水準を本文では補わないが、政策発言の方向はまだ慎重だ。

第三の経路は、原油供給から商品とインフレ期待への流れだ。ホルムズ海峡では木曜日に600万バレルの原油を積んだ4隻、別にイラン産原油400万バレルを積んだ2隻が通航した。ただし、全体の航行は紛争前の1日125隻平均をなお下回る。供給不安は後退したが、正常化が完成したわけではない。

原油市場の内部も同じことを示す。8月限Brentは73ドル付近で、9月限を41セント下回るコンタンゴとなり、短期供給のだぶつきを示した。ホルムズ再開で「足りない原油」から「一気に出てくる原油」へ焦点が移ったが、需要と通航正常化の遅れ次第では来年に再びタイト化する可能性も残る。

第四の経路は、表面上のリスク選好と裏側の信用不安の差だ。Aresの解約制限は、AIが企業価値を押し上げる一方で、AI disruptionが借り手企業の見通しや貸出基準への懸念にもなっていることを示す。株式がAIを買う日でも、信用市場はAIが壊す側を見ている。

明日の注目点

Watch points heatmap

この図は、翌日に確認したい順番を、AI業績、米物価/Fed、原油/Hormuz、中銀温度差、信用の五つに分けている。6月25日は材料が多かったが、相場の読み直し条件は比較的はっきりしている。株高が金利上昇に負けるかどうかだ。

最初の注目点は、AI業績の持続性だ。MicronとQualcommは強いが、前日にSOXが大きく売られた記憶は残っている。AI関連が再び広く買われるには、売上見通しだけでなく、供給制約、顧客コミットメント、利益率の確認が必要になる。半導体株の反発が一日で終わるなら、25日の株高はショートカバーに近かったと読み直すべきだ。

二つ目は、米インフレとFed発言だ。PCEは予想内だったが4%台であり、WilliamsもGoolsbeeもインフレ警戒を続けた。次にサービス価格や期待インフレが再び強く出れば、ドル反落は短命になりやすい。逆に、エネルギー安とサービス鈍化が同時に確認されれば、過度な利上げ観測はさらに剥落する。

三つ目は、ホルムズ通航の継続性だ。原油の短期供給は緩んだが、通航量は過去平均に戻っていない。AIS信号の乱れや船舶の追跡不能も推計を難しくする。供給正常化が続けば原油はインフレ安心として働くが、60日枠組みが揺らげば、エネルギー価格は再び中銀の警戒材料になる。

四つ目は、中銀温度差だ。BOJ、ECB、Fedはいずれも、表現は違ってもインフレの上振れに慎重だった。これが為替に出るなら、円、ユーロ、ドルの相対金利差が再び焦点になる。株式に出るなら、高PERのAI株と、利益が今期に見えるバリュー・ヘルスケア・素材株の差が広がりやすい。

最後に、信用市場の流動性を見ておきたい。Aresの解約制限は、株価指数の強さだけでは見えないリスクだ。解約請求が一部投資家に集中したままなら局所的な話で済むが、private credit全体の資金流出として広がるなら、株式市場のリスク選好にも遅れて影響する。

先行きシナリオ

Reader takeaway

6月25日の市場は、AI相場がまだ終わっていないことを示した。ただし、AIだけで金融政策の制約は消えない。投資家が見るべきなのは、AI需要そのものよりも、AI需要が利益に変わる企業と、インフレ警戒で割引率に負ける企業の差だ。

原油安とホルムズ通航増は安心材料だが、完全な正常化ではない。中銀は停戦や一日のインフレ指標だけで動かない。明日は、株高が金利と信用不安に耐えられるかを確認する日になる。